赤と黒

午前

パン食の日々がたたったのだろうか。腹痛でベッドにパタン。



午後

学校の友人を日本大使館に案内約束をしてしまったので否応なく日本文化センターまで。
わたしが以前行った時に、文化センターの伊藤さんがいろいろと日常生活の情報をくださったので、小さな広報活動。

中尾真佐子さんの「赤と黒」の個展。布を茜色に染色し、漆黒の絵具でマーブリングした。タペストリーやドレスが数点飾ってある。
日本の赤と黒の色の深みに感動。ご本人と少し談話。
マーブリングの製作過程は恥ずかしいほどシンプルで早い作業だから工程は言えない、とのこと。アイディアを練る時間以外は、だーっと作業に没頭する。2メートルかけ4メートルの大きなタペストリー「流れる水(タイトルうろ覚え)」が大迫力。左半分は上から下へ対角線上に黒い線が幾重にも重ねられ、右半分は間。ダイナミックの構図が好き。水墨画のように繊細な筆さばきと、マーブルのような細かいはねとうずまき。そしてほんとうに墨の黒さ。
水一面はって黒い絵具をぱーっとたらして、布をはっただけだよ、とご本人は謙遜するが、本当にきれい。巨大なタペストリーの製作は大胆な線を描くのに水のまわりをすばやく動き回らないと、インクが下へ沈んでしまう。でもデリケートだから震動がおきたらアウト。


夕方

友人たちとわかれて諸用事を済ませ、グランプラスの小さなお店散策。春は工事や模様替えの時期で製作過程がみえる。カラフルなTシャツショップに入ると真っ白な壁と天井にアーティストが黒いマジックをにぎってお絵かき。
ふつうのおっさんが梯子にのぼってマジックを握っている姿がちょっと滑稽。風貌からは信じられないくらい、かわいく繊細な花の絵を描いていた。窓の冊子から店の奥まで黒い線を2週間かけて書いていくのだそうだ。
ウインドウの冊子には先週描いた大きな花とつぼみの線に、彼の友人が描いたとかいうカラフルにペイントした鳥の絵がぽつぽつとある。
鳥の方は線をつかわずに色を塗りつぶして、面的に描く。線と面のコントラストがかわいらしい。
線書きのおじさんのスケッチブックは、植物を観察して鉛筆の線だけでめしべなど細部にわたって丁寧に刻まれている。



わたしが大使館の前でスケッチしていた時に、フランス人のおじさんが話しかけてきた。日本とアメリカの政治研究をやっている方らしい。ベルギーはせっかく遺産があるのに誰も気づかないから実にもったいないと。同感です。
どうも商売っ気がないというか、プロモーション力にかけているのでしょうか。アールヌーボ以外にみるべきところはたくさんある。
植物を愛でるのがたまたまアールヌーボという運動の形で現れたのかなと思う。近代建築をみても、隣のビルと同じものを作らない。コンクリートカーテンウオールのパターンも格子の線にときどきふくらみをもうけたりとどこかしら有機的にみせている。オフィス街も新宿や丸の内に比べあたたかい感じがします。そうそう、丸ビルの建物の角をなくして隅を丸くしたときと同じ効果。
花がないオフィスに装飾をいれるのの何が悪いの?と近頃思う。
日本の建築・芸術はシンプルでひとつひとつが丁寧につくられて洗練されている。ベルギーも作業はかなり丁寧。それが建築写真になると、単なる装飾建築という枠組みにおさめられて、評価されていないから悲しい。
芸術家が育つ街にパリと比較して、ベルギーは評価する人が欠けている。以上がわたしとフランス人のおじさんの結論。